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諸恋

第16章 エピローグ




微かに花織の手を握る彼の手が震えている。花織は声にならない声を漏らして、込み上げてくる涙を堪えた。ゆっくりと瞼を上げ、前を見る。大好きな彼、愛している人。緊張した顔でいるなんておかしいよ。返事なんて言わなくたって分かっているくせに。

「一郎太くん……、私は」

絞り出すような涙声で花織が風丸を呼ぶ。風丸は何も言わずに花織の言葉を待った。花織は右手の人差し指で涙を拭う。きらり、と光を受けて彼女の小指に嵌められたそれが輝く。これも風丸が花織を守ると言ってくれた証。

「これからも一郎太くんの隣を走っていたい」

濡れた瞳が柔らかく微笑む。

「私でよければ、喜んで」

その言葉と同時に風丸は立ち上がって花織を抱き寄せた。花織は彼の胸に頭を預けて目を伏せる。心臓の音が大きく聞こえる。風丸は花織の身体を掻き抱いて、はあっと緊張が解けたように息を吐いた。

「待たせて悪かった。ちゃんとお前を幸せにできる自信がついてから言おうと思っていたんだ」
「……そんなことだろうと思ってた」

泣きじゃくる花織の顔を覗き込んで風丸が言えば、花織は喜びの涙を流しながら笑った。風丸は照れたように苦笑する。そしてポケットからあるものを取り出して花織の前で開いた。

「ずっと前から渡そうと思ってた。……着けてくれるか?」
「……うん」

風丸は花織の左手の薬指にそれをぴたりと嵌める。彼が花織のために選んだ婚約指輪はシンプルだが、中央の台座に嵌められたダイヤモンドが光を集めて煌めいていた。花織は感嘆の息を漏らして自分の左手に嵌められたそれを見つめ、また静かに涙を零す。今度は風丸の大きな手が、花織の涙を拭った。

「これからも一緒に走っていこう、花織」

花織は風丸の問いかけに頷く。今この場所で、ふたりのサッカーの始まりの場所で、新しい物語がスタートする。きっと幾多の困難が彼らを阻み、壁が立ちふさがるだろう。それでもふたりは結ばれる、永遠に。誰よりも強く。

これが風を愛した、愛し合うふたりの物語の新しい生まれ日だった。

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