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諸恋

第5章 魅惑の女性




「君は今日も早起きだね。俺のことは放っといて、っていったじゃん」

ぶっきらぼうに緑川が吐き捨てる。いつものように明るくてお調子者な雰囲気ではない。苛立ちを孕んだような、きつい口調で花織に言葉を掛けた。花織はただ微笑んで緑川を見上げる。

「放っとけないよ、仲間だから」
「情けも過ぐれば仇となる。本当に俺のことはいいから、大丈夫だから」

緑川はタオルを放り投げて練習に戻ろうとする。花織はその手を掴んで引き留めた。汗で濡れた緑川の手が花織の手に収まる。緑川は振り返って花織を睨んだ。花織はあくまでも穏やかにだが真剣な目をして緑川を見据える。

「本当に大丈夫な人はそんな顔しない」
「……っ」

緑川が深く眉間に皺を寄せた。苛立ちを隠しきれずに花織の手を払いのける。

「君に何が分かるっていうんだ!!選手でもないのに!」
「緑川くん……」
「仲間?それでもレギュラーを取り合わなきゃいけない。メンバーに選ばれなきゃ意味がないんだ。本当の意味での仲間になるには、それ相応の実力が必要なんだ!!」

ありったけの声で緑川が叫ぶ。花織は少なくともそれが彼の本心であることを悟った。やっぱり緑川は悩んでいたのだ、自分の実力不足を感じて、朝も夜もがむしゃらに突っ走り続けている。

「それでも、そんなに自分を追い込んでいたらきっといつか身体を壊す。最近、食事も喉を通ってないんじゃない?カタール戦の時だって足の筋肉が疲労で痙攣してた。ねえ緑川くん、緑川くんは……」
「もういい!!余計なお世話だ!」

緑川は自分が持ってきたタオルを引っ付かみ、合宿所へと向かって走っていった。残された花織はその場に立ち尽くして困った顔をする。これは思ったより手ごわい、というより彼は私を信頼してくれていないようだ。今まで相談を受けてきた風丸をはじめとする人間は自分を信用してくれていたから話を受けやすかったが、緑川とはそこまでの付き合いでもない。

緑川は自分に自信がないのだと思う。だから自分のプレーをすれば大丈夫なのだと元気づけたかった。だがもう、花織の口からそれはできないだろう。
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