第5章 魅惑の女性
「俺も嬉しいよ。花織がこうして俺の傍にいて、一緒にサッカーができることが。あの頃は、お前は俺のものにはならないと思ってたから」
俺のもの、その言葉遣いに花織はきゅん、と胸が軽く締め付けられるような感覚に陥る。そうだ、あの頃は一応恋人関係にはあったけれど確かに私は彼のものではなかった。でも今は、心は完全に彼の虜だ。
「私は一郎太くんのものだよ」
さらりと花織がその言葉を口にする。風丸は目を見開いて花織を見つめた。花織はまるで一輪の花のように柔らかく笑んで風丸を見つめる。一点の曇りもない黒い瞳が好きで堪らないとばかりに風丸に訴えかけている。朝目覚めてから夜眠りにつくまで、夢の中でも何度だって彼に恋をしている。できることならばもっと貴方の傍にいたいと感じているのだ。
「花織」
ベンチに付いていた彼女の手に風丸は自分の手を添える。彼女から得られる言葉で何より嬉しい言葉かもしれない。風丸は彼女に微笑みを返して、大切な人を見つめる。
「ありがとう、俺を好きになってくれて」
俺も、ただただ花織が好きだ。
「もう少しだけ、ここにいようぜ」
鉄塔広場の夕焼けが温かく見守る中、夏の涼やかな風が想い合うふたりを優しく包んでいた。