第5章 魅惑の女性
今日からの練習は各々苦手部分の強化と新必殺技の研究ということになった。風丸は個人特訓だが、他のチームメンバーは二人で行う必殺技を検討している。吹雪のスピードと土方のパワーと安定したボディバランスを掛け合わせた必殺技を鬼道が提案し、実践することになった。またそれに乗った綱海と壁山がそれぞれ必殺技を考えるようだ。
風丸と花織は朝食を終えるとチームから離脱し、彼の自主練習のために鉄塔広場へとやってきていた。ここならば十分にスペースもあるし、人もわりに少ない。河川敷のグラウンドも検討したのだが、今日はイナズマKFCという小学生サッカーチームの練習日だった。
「あの風に磨きをかける、か……」
風丸が鉄塔広場からの景色を眺めながら、思案顔で呟く。花織はその横に立って彼の端正な顔を見つめていた。
「何かイメージはある?」
「わからない。正直、選考試合の時も夢中だったからどういう感覚だったのか」
風丸が手を顎に当てて俯く。眉間に皺を寄せてその時のことを思い出そうとしているようだが、中々感覚として思い出すことができないようだ。花織はベンチに置いた荷物の中からサッカーボールを取り出す。
「じゃあ、とにかくボールを蹴ってみようよ。選考試合の時は綱海くんを抜こうとしたときに風が生まれたんでしょう」
風丸が花織を振り返った。花織は微笑む。風にさらさらと結い上げた黒髪が揺れて、陽光がその黒髪と彼女の表情を美しく輝かせる。純粋に綺麗だと思った。彼女はボールを地面に置いて、風丸に向かって軽くパスをする。風丸は足でそれを受け止めた。
「相手にならないかもしれないけど、私を抜いてみて。そしたら何か分かるかもしれない」
「花織……」
風丸が微笑む。久しぶりだ、花織とボールを蹴るのは。楽しい以外の言葉が存在しないサッカー、それが花織とのサッカーだ。実力差はもちろんあるが、それでも風丸を花織は知り尽くしているから大きな差にはならない。
「よし、やるか!」
「ふふ。本気で行くよ、一郎太くん」
強い風が一瞬吹き付ける。それを合図に二人は地面を蹴った。