第5章 魅惑の女性
「久遠監督にも自主練習の許可はとってある」
「わかった。その必殺技を完成させればいいんだな」
「ああ」
鬼道が頷く。そして風丸から視線を逸らして花織を見つめた。彼はふたりを見据えて言葉を続ける。
「校外に出るなら花織といっしょに行け。花織、お前は風丸のマネジメントとアシストを頼む。お前なら風丸の練習相手にもなれるだろう」
ふっと口元に笑みを漏らす。花織は別の意味でドキッとしてしまった。鬼道は風丸と花織が恋人同士であるから気を遣ってくれた、というわけではないようだ。鬼道と花織は付き合いが長いからこそお互いが言わんとすることがよくわかる。花織の目には、鬼道が言葉なくとも”またお前が時間外に練習しているのは知っているぞ”と言いたげだと思えた。
「わ、わかりました」
気づかれていないと思っていたのに。花織は少々口ごもって鬼道の提案に賛成する。だが夜間の練習についてここで忠告してこないということは一応容認はしてくれているのだろう。ここは一応学校内でキャラバンで旅をしていたときよりは危険も少ないから大丈夫だろうと踏んでいるのか。
「花織」
風丸が振り返って花織を見上げる。花織は風丸を見つめて首を傾げた。彼はにっこりと爽やかに笑う。
「よろしくな、一緒に頑張ろうぜ」
ああ、もう。どうしてこんなに格好いいんだろうか。
「うん、よろしくね」
面映ゆさを隠して花織が微笑み、ふっと視線を逸らす。ふと目に映ったのは風丸と同じポニーテールの少年。彼は浮かない表情をして席を立った。テーブルに残された食事は、殆ど手が付けられていなかった。