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諸恋

第5章 魅惑の女性




彼の名前が出て花織はくるりと風丸の方を振り返る。鬼道の言葉を頼りに彼女もその時のことを思い出そうとした。ちらりと風丸のことを見る彼はすぐにはその時のことが思い浮かばないようで眉間に皺を寄せている。

「俺が綱海を?」
「ああ。……花織、覚えていないか?お前は良く風丸を見ているだろう」

鬼道の視線が花織を捕らえ、唐突に名指しで花織を呼んだ。花織はどきっとしてお冷が入ったボトルを落としそうになる。風丸が綱海を抜いた瞬間のこと……。覚えている、確証はないが思い当たる場面はある。確か後半が始まって割とすぐのことだった。疾風怒濤のスピードで綱海を抜き去り、そのままシュートへ持ち込んだプレーだったと思う。シュートは決まらなかったが、一人で選手を抜き、シュートを放ったという点でポイントが高いのではないかと花織が思ったプレーだった。

「はい。……えっと、後半始まってすぐの、綱海くんを抜いてそのまま一郎太くんがシュートしたときのプレイですか?」
「ああ、そうだ」
「あ、あのときか!」

花織の言葉で円堂が思い出したように声を漏らした。

「一瞬風がぶわあっとなって」
「覚えてるぜ、確かにすげえ風だった」

横から綱海も口を挟む。実際、そのスピードを一番体感したのは綱海だろう。ベンチから見ていた花織からしても綱海はあの時バランスを崩していたように見えた。相当のスピードで風丸が駆け抜けたからに違いない。

「あの風に更なる磨きをかければ強力な必殺技になるはずだ」
「……」

鬼道の指摘に風丸の表情が引き締まる。頼もしい、男らしい表情。きゅん、と花織は胸の奥がときめくのを感じる。チームのためにと思案する彼はいつみても素敵だ。

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