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諸恋

第4章 微細な変化




「大丈夫?」

彼女の桜色の唇が煽情的に艶めかしく風丸を誘う。風丸は思わず利き手で花織の二の腕を掴んだ。花織が驚いて目を見開く間もないまま、彼は花織に顔を寄せる。もう一方の手を彼女の頬に添えて深く口づけをする。二の腕を掴んだ腕をゆっくり緩めて唇を離した。

「……大丈夫じゃない。すまない、花織」

掠れた声で風丸が囁く。いつの間にか彼の手は一方は彼女の後頭部に、そしてもう一方は腰に回されていた。彼女を逃がさないように自然と体が動いている。ぎらりと情欲に光る風丸の瞳に花織が臆していることに、踏み止まる気持ちと加虐心が彼の内心で鬩ぎ合っている。

「お前が足りないんだ」

それは要求だった。花織はきゅっと唇を結んで彼の甘い言葉に酔いしれている。拒むはずがない、拒む理由もない。花織は恥じらいに息をついてこくりと頷く。

「……ん。……一郎太くん」

花織がそっと風丸の胸板に手を触れる。ふるふると震える瞳で彼を見つめて彼女は声を絞り出した。

「キス、して……?」

それは十分以上の了承だった。風丸は花織の腰をぐっと抱き寄せて、先ほどよりも情熱的に唇を重ねる。何度も何度も角度を変えて唇を重ね、舌先で舐りのちにゆっくりと彼女を侵食する。彼女の全てを奪うように口づける。絡まり合う。でも足りない。圧倒的に何かが足りない。

これ以上に、花織の全てが欲しいのに。手段が分からない。

強く抱きしめてもこれ以上は手に入らない。風丸の心は未知の感情に包まれたまま、この行為は別れの鐘がなるまで続けられた。
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