第4章 微細な変化
「おはよう……、月島さん」
「緑川くんおはよう、朝練してたの?」
首にかけたタオルで汗を拭いながら緑川はそうだよ、と軽い口調で返答する。花織の目からは平気そうに見えるが、どのくらいの時間練習していたのだろうか。花織は両手に抱えていたボトルと濡れタオルを緑川に差し出した。
「これ、良かったら使って。窓の外に緑川くんの姿が見えたから準備してきたんだ」
「へえ、ありがと。さすがマネージャーよく気が付くね。これこそが鑿と言えば槌というやつかな」
お得意の諺を説きながら緑川は花織からボトルとタオルを受け取る。冷えたタオルで首元を拭き、ボトルのドリンクを口にした。花織はそんな緑川の様子をじっと見て考え事をしていた。そういえば緑川は昨日、鬼道の静止を振り切って練習後も走り込みをしていなかっただろうか。
今は平気そうなふりをしているだけで、本当は無理をしているのではないだろうか。花織は少々そういうことには過敏になってしまう。できれば見逃したくない。力が無いと落胆したり、無理をする人のことを。
「俺の顔に何かついてる?」
じっと黙り込んでいる花織を怪訝に思ったのか、緑川が顔を顰める。花織は慌てて首を振った。大丈夫ならば、構わないのだ。そもそも練習のし過ぎについて花織自身が言及できることではない。花織だって今もこっそり練習をすることなんて日常茶飯事だ。
「何でもない、気にしないで」
「ならいいけど。可愛い女の子に見つめられて悪い気はしないしね」