第4章 微細な変化
淑やかに笑いながらも彼女は頼もしい言葉を返す。元々の体力、そして風丸のために考案した筋トレ・ストレッチメニューを彼女自身もこなしている。こんなことでへこたれてなんていられないのだ。風丸はそんな彼女を見て目を細め、そっと彼女の髪に手を伸ばす。そして静かに肩へと流れる髪を梳いた。
「それでも、花織は女なんだから。つらい時は頼ってくれよ」
「……ありがとう。……じゃあ、ちょっとお願いしてもいい?」
「なんだ?」
風丸のベッドに背を預けていた花織が動く。風丸の手を握っていた手を解いて床につき、その手に彼女は体重をかけて、そうっと風丸に近づく。今まで隣に座っていたがぐっと距離が縮まった。
「ちょっとだけ……、抱きしめてもらってもいいかな」
眠気で潤む瞳で風丸を見つめ白い頬を桃色に染めて、花織が絞り出すような声で言った。ぞく、と風丸は心臓が飛び上がると同時にそんな感覚を覚える。一瞬で赤面して固まる風丸を見て花織は恥じらいを見せて俯いた。こういうところはいつまでも初々しい。
「ご、ごめんね急に。一郎太くんが嫌なら……っ」
「花織」
強引に花織の手を引き寄せて風丸は胸に花織を抱きとめる。
「これで、いいか?」
「……うん」
腕の中で彼女の頭が動く。柔らかで小さな身体。高い体温が風丸の身体に触れる。彼女が身動きするたびに良い匂いがして、いつまでだってこうしていられる。こうやって誰よりも近くにいられれば、どんな穢れからも花織を守ることができるのに。
それなのに無情にもふたりを引き裂く鐘が今日も鳴る。
「……もう、帰らなきゃ」
「……ああ」
ゆっくりと花織が身体を起こして立ち上がる。声に名残惜しさはあったが、彼女の切り替えは早かった。静々と彼の部屋の入口まで歩いて風丸を振り返る。