第4章 微細な変化
円堂たちが帰宅して、選手たちはようやく夕食にありつくことができた。虎丸は何でも体の弱い母親に代わって実家の定食屋「虎の屋」をほぼひとりで切り盛りしていたのだという。そこで円堂たちが出前などの手伝いをすることを提案し、手伝っていたために帰宅時間が遅くなったのだと言っていた。仲間を放っておけない円堂らしいと、基山ヒロトはそう思った。
「おかわりお願いしますッス!!」
壁山がいつものようにそういって皿をカウンターに持ってゆく。その先には彼女、花織の姿がある。秋たち他のマネージャーも円堂と手伝いに出ていたため、今日は彼女が目金とふたりでこの合宿所に寝泊まりする全員分の食事を作っていたのは言わずとも皆知っている。だからこそ目金はへとへとに疲れた様子を見せている。
「はい、壁山くん。大盛りでよかった?」
「もちろんッス!!今日のカレーすごく美味しいッス!」
それなのに彼女は。揺れる黒髪、白に赤みのさした頬。輝かんばかりの笑顔で応対している。
「よかった、まだまだあるから遠慮せずに食べてね」
壁山の言葉に嬉しそうに表情を綻ばせた。壁山が去った後も落ち着いた微笑みを絶やさずに選手たちに食事を配る。誰かが水を切らせば汲んで回るし、何より疲れた様子がない。真っ白なエプロンの裾をひらひらさせて、くるくると動く。そんな姿がとても可愛い。じっと視線が彼女を追ってしまう。
「ヒロトくんって、花織さんの事好きだよね」
突然にかけられた声にヒロトはびく、と柄にもなく肩を揺らして我に返った。そこでヒロトは自分が彼女に見惚れることに夢中で食事をするのを忘れていたことに気が付く。ヒロトは落ち着きを払おうと息を吐く。唐突な指摘に思わずちらと横を見たが、今のは隣に座る緑川の声ではない。彼はゆっくりと視線を上げた。