第4章 微細な変化
「おかわりもあるからいっぱい食べてね」
「ありがとう、花織さん」
吹雪は忙しそうに働きながらも微笑みを見せ、対応してくれる花織をやはりいいなと思う。自分よりも小柄なのに、大鍋をかき回して一生懸命な姿は大人びたお姉さんのような口調とは裏腹にとても可愛らしいと感じてしまう。それは吹雪がいまだに花織に特別な感情を抱いているからだろうか。
「士郎くん」
カウンターの奥から手が伸びてこと、とそこに小皿が置かれた。桜色の小皿の上にはリンゴのウサギが二羽ちょこんと置かれている。差し出されたそれを見て不思議そうに吹雪が首を傾げて花織を見れば、彼女はきょろきょろと周りに誰もいないことを確認して吹雪に悪戯っぽく微笑んだ。
「練習お疲れさま。気を遣ってくれたから、これ士郎くんに特別に」
皆には内緒ね、と左手の人差し指を口元に当てて彼女が言う。後ろに一つに縛った彼女の黒髪が僅かに揺れた。どきん、と吹雪は自分の心が揺れるのを感じる。……本当に、飽きない人だな。吹雪は花織を見つめてふんわりと微笑む。
「ありがとう。二人だけの秘密だね」
吹雪はそう言ってリンゴを一切れ手に取った。彼女はくす、と笑ってカウンターの奥に去ってゆく。その後姿を見ながら吹雪は、彼女はやはり素敵な人だと実感していた、キャラバンにいたときから知っていたことだが。
いつも笑顔で優しくて、とても熱心にサポートをしてくれている。それは他のマネージャーも同じだけれど、彼女には他のマネージャーにはない何かがあった。吹雪にとって彼女は特別だ、彼女に惚れない人なんているのだろうかと思うほどに内心魅力を感じている。しゃく、と音を立てたリンゴ。それは蜜がたっぷりでとても甘くて美味しかった。