第3章 恋人の距離
リカはただ単純にからかっているような口ぶりだが、内心安堵の気持ちもあった。キャラバンに乗っているとき、花織と風丸の関係は拗れてしまい、花織がひどく憔悴したこともあった。だからこそ今でもふたりの関係は心配で気になるのだ。花織は間違いなくいい子で、風丸もいい男だ。互いを大事にするふたりにはどうか幸せになってほしいと思っている。だから花織の口からお惚気を聞けるのはふたりの関係が良好な証だとリカは感じている。
「ま、なんかあったらウチが相談に乗ったるから安心しいや」
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リカに散々からかわれ”ホンマ羨ましいわー”を連発されたその晩、花織は再び風丸の部屋を訪れていた。今度はトレーニング目的ではなく、ただ単純に彼と語らうためだった。先日のように二人で並んで座り手を握り合って、とりとめのない話をした。ただ風丸はどうにも昼間のあの出来事から花織の傍にいることでこみ上げる愛情によく似た他の衝動を胸の中で感じていた。
「一郎太くん、何か悩んでる?」
花織を見つめてぼんやりとしている風丸に花織が心配そうに問うた。いつも通りのようで、どこかいつも通りではない風丸。些細な変化だがやはり花織は簡単に察してしまう。
「どうしたんだ、急に」
「ずっと考え事してるみたいだったから」
風丸を想う花織の優し気な瞳。どき、と心臓が大きく拍動するのが分かる。この子が好きだ、出会った時から今でも新鮮な気持ちで恋をしていると思う。以前とは違い、純粋に自分に向けられる愛情を実感できて心が満たされている。
「なんでもないよ」
本当に何でもない。監督の事やチームのこと、不安がないわけではないが大した悩みではない。かつて自分が抱えていた闇に比べれば。何でもないのだ。