第3章 恋人の距離
「うん。……、った」
立ち上がろうとした花織の身体がよろめく。彼女の正面に立っていた風丸は咄嗟に膝をついて花織の身体を支えた。花織は風丸の両肩に手を置いて彼にもたれる。
「花織、大丈夫か?」
「平気。ごめん、ちょっと足しびれちゃったみたいで」
ちょっと、このまま……と申し訳なさそうに花織が笑う。彼女を支えるように腰に手を回して風丸はしょうがないな、というような顔で花織を見つめた。その拍子にふとあるものが目についてしまった。自分に押し付けられた彼女の上体、シャツの襟もとから見える白い肌と自分には決してない豊満なふくらみ。
「……」
ぞく、と背筋を何かが走る。思わず彼女を支える手が緩みそうになった。同じように鍛えても柔らかく華奢な花織の身体。自分の中で何かが揺らぎそうになる。いつも彼女を抱きしめているときとは違う感覚。
「一郎太くん」
「……っ」
「どうしたの?」
足のしびれる痛みをこらえるような表情をしつつ、風丸を心配する彼女。桃色の唇が煽情的に言葉を紡ぐ。耐え難い衝動が風丸の中の何かをくすぐった。どうしようもなくなって風丸は花織の身体を強く抱きしめた。
「……」
突然の行動に強張る彼女の身体、それでも確かに柔らかい。ふわりと彼女の汗のにおいがした、不快だとは思わなかった。いつものように抱きしめていれば少しだけ気持ちが落ち着くような気がした。自分の中で駆り立てられるよくわからない感情を抑えようと風丸は深呼吸する。
「すまない、少し……、このまま」
よくわからない感情に煽られて、風丸は息をつく。一瞬走った衝動は間違いなく彼女を傷つけるだろうと確信していた。