第3章 恋人の距離
チームはいまだにまとまりがなく、連携もうまくできない。試合に向けて個人の調整だって必要だ。それなのに監督が出した命令は練習禁止と合宿所からの退出禁止。二日後に試合を控えている場面でとる行動だとは思えない、正気の沙汰かを疑う指示だ。
花織はちらりと合宿所内の時計を見上げる。午前十三時半、本来ならば練習をしている時間だ。選手たちは監督の命令が出てから全員自室に閉じ込められている。無論、カギはかかっていないため、互いの行き来は可能だ。だが合宿所の出入り口では監督自ら選手の出入りを見張っており、外に出ることはできない。どうやら監督は外での練習を完全に封じてしまう気らしい。
……でも、できることはあるはず。
花織は自分の仕事をできるだけ早く片付けて食堂を後にした。階段の傍では監督が本を読んでいる。その横をすり抜けて階段を上った。昼食の準備をしているとき、選手たちが監督に抗議する声を何度も聞いた。珍しく鬼道が声を荒げているのも。それでも監督の許可が下りなくて選手たちは部屋の中だ。
何か考えがあっての事か、それとも桜咲木中に続き次はイナズマジャパンを潰すつもりなのか。事の真偽はわからないが、監督の言いなりでこの時間を無駄に過ごす必要はない。
「一郎太くん、いる?」
そう思い、花織が訪ねたのは風丸の部屋だ。ノックをして彼に呼びかければ彼はすぐさま扉を開ける。
「花織?」
いきなりの訪問に風丸が首を傾げる。ふと花織の姿に違和感を覚える。その違和感はすぐに思い当たった。彼が先ほど食堂であった時は花織は制服にエプロン姿だった。だが今の彼女はTシャツにハーフパンツ姿だ。そして髪を結い上げている、風丸と同じように。
花織はじっと風丸を見つめる。なんてことないはずなのに、妙に心臓がどきどきした。
「あの、一緒に練習しない?」