第3章 恋人の距離
アジア予選トーナメントの抽選会が昨日行われた。強豪が集うアジアの中で最初の日本代表の相手はオーストラリア代表のビックウェイブスだ。目金曰く、海で肉体を鍛え上げた男たちのチームだという。何にせよ、体力差、体格差は確実にあるのだし、チームとしての連携が重要になるであろうと花織は考えていた。ギクシャクしておりかみ合わず、監督の不満に渦巻いていたチームも一回戦の相手が決まったことにより士気が高まっていたはずだった。
「オーストラリア戦までの二日間、練習を一切禁止する」
監督のこの一言がチームを凍り付かせた。
この頃イナズマジャパンのチームメイトはある噂でもちきりだった。それは春奈がサッカー協会東京支部で仕入れてきた情報だった。
”久遠道也は呪われた監督だ”
久遠道也監督は十年前、桜咲木中学の監督をしていたらしい。桜咲木中はその時、フットボールフロンティアの予選を大量得点差で勝ち進んでいた。今年の優勝は桜咲木中だ、と囁かれるほどに優秀なチームだったという。だが決勝戦の前日、久遠監督が事件を起こしたことでチームは決勝を棄権することになったのだという。
この噂はサッカーに携わる大人たちの中ではわりに有名な話らしい。春奈曰く、サッカー協会の職員ですらこの噂を知っていたという。久遠は疎まれ、世間からは明らかに日本代表チームの監督に相応しくないとみられている。
こんな人が監督でいいのだろうか。チームの中では久遠監督への不満も選手たちの中で高まりつつあり、そんな考えを持つものも出てきていた。花織もその一人である。その噂が真実であるのなら、今すぐに監督を降りてほしいと考えている。ただ確かに言っていることは正しいからとついてきていた。多少疑問の残る代表選考にも目を瞑ってきた。
だがここにきて練習禁止とはどういうことだろう。間違いなくオーストラリアは強豪で、さらに言えば優勝候補だ。この二日間は大事に使わなければいけないはずだ。