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諸恋

第3章 恋人の距離




「こういうことは一郎太くんとは話さなくて。私、彼の前ではたぶん見栄を張ってるんです。こういうチームに対する不満みたいなものはあまり言いたくなくて。弱音を吐きたくないのかな……、きっと一郎太くんは気を使って、私の意見を全面的に肯定してしまうから」

きっと先刻の言葉は少なからず花織を傷つけたのではないかと思った。だが花織は微塵もそんな表情を出さなかった。穏やかに微笑み、胸元で手を握り合わせる。

「でも鬼道さんとは彼と出会うより前からお話をしてきて、ずっといろんな悩みを聞いてもらってきた。言い分を聞きつつ正しい返答をしてくれるってわかっている。だから鬼道さんに甘えてしまうんです」

あざとい、というのか。きっと鬼道の苦悩を知ったうえで彼女は相談を持ち掛けている。なぜなら他ならない鬼道自身がそれを望んだからだ。

でも彼女が紡ぐ言葉は彼女の本心だ。だからこそよりあざとい、意識していないからこそ性質が悪い。鬼道を信頼しているという言葉、聞き取りようによっては風丸よりも信頼しているのだというような言葉。思いを寄せている女性にそんなことを言われて何も感じない男がいるだろうか。

「お前が俺を信頼してくれていることはわかっている。……俺も、お前の信頼を裏切りたくないと思っている」

今でもお前を愛している。お前の幸せが何よりだと信じ、自分に言い聞かせてきた。だが他の男の隣で笑うお前をこの頃は耐え難く感じている。いつかお前の幸せを、俺は壊してしまうかもしれない。

「どんな些細なことでも相談には乗ろう。……お前のために」

俺たちは少しだけ距離を置くことが必要なのかもしれない。お前のためにも、俺自身のためにも。


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