第3章 恋人の距離
この提案を出したときは大丈夫だと思っていたのに。エイリア学園の騒動が収束した、数か月の穏やかな日々の中でふたりの仲睦まじい姿を見るたびに確かに胸の中に募る感情があった。
「お前は本当に風丸が好きだな」
わざとではないが、少しだけ嫌味を含んだ口調になった。
「そんなにアイツが心配ならば、ここではなくアイツの傍にいればいいだろう」
「鬼道さん……?」
強い言葉に花織が表情を陰らせて鬼道を見つめた。鬼道はハッとして花織を見る。花織は不安げで、鬼道らしくない言葉を呟いた彼を心配そうにのぞき込んでいる。今のは明らかに失言だったと鬼道は口ごもった。
「いや、なんでもない。……すまない花織、気にしないでくれ」
今のは間違いなく失言だった。先刻の発言を取り消そうと鬼道が無理に笑って見せる。花織と俺との間にあるつながりは簡単に切れてしまうようなものではない。だがそれ以上に繊細で、複雑な立場だ。壊れてしまえばおそらく二度と元には戻れない。
言葉は怖い。かつて花織に告げた一言が、鬼道を花織の隣に立つことを今でも阻み続けている。
「俺にも解せないことが多くてな、疲れているのかもしれない……」
柄にもなく言い訳の言葉を綴る。今の俺は花織にとって良き理解者で、相談相手。それ以上を今の状況で願ってはいけない。何度だってそう胸に刻んだはずだ。
「ごめんなさい。鬼道さんにはいつも私の相談に乗って頂いて……。私はすぐに鬼道さんに頼ってしまうから……」
「違うんだ、花織」
花織が申し訳なさそうに俯く。鬼道は必死に弁明の言葉を続けようとした。だがそれを花織が首を振って遮る。鬼道はゴーグルのなかで花織を凝視した。