第3章 恋人の距離
「確かに指摘は的確です。でも……、不可解な言動が多すぎる」
「ああ……、否定はしない」
「今日の不動君のプレーは……。私は、評価に値するとは思えませんでした」
俯き、苦虫を噛みつぶしたような表情をして花織が呟く。鬼道はその言葉で花織が一体何が言いたいのかを悟った。ずっと見ていた彼女の気持ちを探ることなんて容易い。
きっと言葉の通り、監督の采配が理解できないでいたり、鬼道と同じように不動たち、日本代表にとってふさわしいとはいえない人間が選ばれていることに疑問を感じているのは事実なのだろう。だがそれは彼女が憤慨している理由ではない。
鬼道は黙って拳を握る。
花織が苛立っているのは、久遠監督が風丸を傷つけるようなプレーを容認したことだ。
分からないでもない。分かっている。知っている。お前の心配は風丸に向けられるばかりだ。
ふたりは恋人同士なのだから、何もおかしいことはない。今までだってずっとそうだったはずなのに。胸の底で燻るような感覚がある。
「……お前が怒る理由は風丸か、なるほどな」
誤魔化すような微笑みを湛えて鬼道が呟く。花織は鬼道が何を言いたいのかを理解して少しだけ顔を赤らめた。
「だって……、不動君のあのプレー故意だってわかってますし。それに」
彼女の恥ずかしがるそのしぐさには風丸が好きで堪らないという感情が滲み出ている。鬼道の気も知らずに。
今までもずっと見てきただろう。なのに何故今更になってこんなに花織の言葉に胸が痛むのだろう。花織が始終風丸のことを考えていることなんてもうずっと前からだ。自分が視界に入れなくなってしまってもうずいぶん経つのだから。俺は花織の親友だ、それでいいと思っている。
いや違う、今まで誤魔化していただけだ。花織から遠ざかってしまうのが嫌で、彼女の良き理解者を演じている。狡く打算的な考えだ。本当は花織を諦めたことは一度もないのに。