第1章 始まりの予感
ふたりきりの練習を終えると風丸は花織を家まで送る。サッカー部の練習の後に行う自主練習だからどうしても終わる時間がとっぷりと日が暮れた後になってしまうのだ。そんな夜道を風丸は花織に一人きりで歩かせる気はないからこうして練習の後は毎度彼女を家まで送り届けている。
「そういえば明日、響木監督に呼ばれてるんだ」
談笑のさなか、ふと思い出したように風丸が呟いた。風に揺れる黒髪を抑えて花織は風丸を見つめる。そして不思議そうに首を傾げた。
話題に上がった響木監督は稲妻町にある商店街のラーメン屋の店主で、雷門中学サッカー部の監督だ。それ故に練習にはあまり顔を出せないことが多い。その響木監督が呼び出しをするということはよほどのことだろう。それによくよく思い出してみれば明日はサッカー部の練習は休みになっていたはずだ。
「珍しいね、一郎太くんだけ?」
「いや、俺の他にはとりあえず円堂と染岡と壁山もだな。……ほら、前にも話しただろ、明日アイツらと新モデルのスパイクを買いに行く約束してたから」
花織は頷きながら風丸の話を聞く。確か一週間ほど前に、彼との会話の中でそんな話を聞いた。商店街のスポーツショップにニューモデルのスパイクが入荷するというのは部内では持ちきりの話だ。特にキャプテンが発売を楽しみにしていたから記憶によく残っている。
「だから明日はアイツらと商店街によってから学校に行くつもりだ。集合は正午に体育館だからな」
要件についてはまだ何も知らされてないと風丸が呟く。風丸曰く、それは他のメンバーも同様らしい。花織はまた小首を傾げた。彼女の細い眉が不思議そうに顰められる。
「何だろうね、久しぶりの休みなのに。私たちマネージャーは部室の片づけがあるから、元々別で集まる予定だったけど……」
花織は明日、秋の提案でマネージャーの仕事を行う予定だった。過去対戦相手の資料のまとめや物品の発注など、普段選手のケアを行いながらではできないことをやることになっていた。本当にエイリアの事件があってからは中々整理する時間がなかったのだ。色々溜まりに溜まっているから片付けようと秋が意気込んでいた。
「次の練習試合の事じゃないか。フットボールフロンティアで優勝してから練習試合の申し込みが絶えないみたいだしな」