第1章 始まりの予感
「うーん……、そうだね。全国色々な所から申し込みが来てるって聞いてるから」
エイリア騒動で少しだけ感動が薄れているが、今の雷門は四十年間無敗の帝国学園を打ち破ったフットボールフロンティアの王者だ。多くの学校から練習試合の申し込みが殺到していると響木監督が漏らしているのを聞いた覚えがある。明日は主要選手を集めての作戦会議でも執り行うのかもしれない。
「何にせよ、一郎太くんも学校に来るなら明日も会えるね」
ふふっ、と嬉しそうに花織が微笑む。彼とは練習があるからほとんど毎日を顔を合わせている。しかしそうであっても、少しでも長い時間彼と一緒にいたい、一緒にいられると嬉しいと花織は思う。
そんな花織の言葉に風丸は少し顔を赤らめた。少しだけ花織から顔を背けてしまう。どんなにふたりの距離が縮まっても彼女の自分に対する想いを嬉しいと感じる気持ちは変わらない。彼女の一言一言にドキドキするし、感情を揺すぶられる。
「そうだな」
好きになった時から変わらない、彼は今も花織に夢中だ。
「……花織」
どちらともなくふたりの歩みが止まる。そっと風丸が花織の左手を取った。本当に今更なのだが、通学路ではいつも人目を気にして手を繋ぐことができない。こうして別れ際にさよならを惜しんでどちらかが手を伸ばす羽目になる。
「また明日な」
「……うん」
家々の明かりがあるものの、薄暗い住宅街。通行人などおらずここは静寂に包まれている。その中で彼らはお互いの手の温もりを感じる。風丸と花織の視線が熱く交わる。
「……」
風丸の左手が頬に触れ、それを合図に花織はそっと目を閉じた。いつからか習慣化しているこの行為は別れの切なさを倍増させる。瞼を閉じた直後に唇に触れた柔らかい感覚はほんの一瞬で、とても名残惜しいと思ってしまう。
「じゃあ、おやすみ」
静かに風丸の手が花織から離れる。花織の大好きな優しい笑顔を浮かべた彼は、恥ずかしさを隠しているかのようにくるりと花織に背を向けてきた道を駆けていった。花織は去っていくその背中を見つめる。
「……おやすみなさい、一郎太くん」
こんなに近くにいるのにもっと傍にいたいと思ってしまうのは、いったいどうしてなんだろう。