第3章 恋人の距離
ちょっと転んだくらい、という言葉に花織が反応して言い返そうとする。さっきの風丸の転倒はちょっと転んだ、程度のものではないだろう。そもそも不動のプレイが原因で彼が怪我をしかけたというのに。だがそれを遮るように不動が続けた。
「おいおい仮にも日本代表だぜ?あんなのも避けられねえとは思わなかったんだよ」
「一体何が言いたいの?」
「さてねえ」
あからさまな挑発に風丸よりも花織が怒りを見せた。細い眉を顰めて不動を睨む。だが不動は花織の怒りなどまったく気にしていないようだ。肩を竦めて厭味ったらしく笑う。
「不動!」
その時不動を呼ぶ声が響いた。久遠監督だ、不動は返事をしてこの場を去っていく。花織は黙ったまま何も言わずに不動に視線を送った。久遠監督と何を話しているのか様子を伺う。彼の笑顔が表情に残ったまま、ということは彼は褒められているのだろうか。花織は益々不可解そうな表情を浮かべる。
「気にするな、花織。ああいうやつなんだよ不動は」
「……」
風丸が花織の肩を叩く。彼の表情も少し険しい。おそらく花織と考えていることは一緒だろう。
「なんであんな奴が選ばれたんだろうな」
花織は今なら不動を忌み嫌う鬼道の気持ちに少し共感できた。本当にわからない。久遠監督の意図も、チームの輪を乱す不動明王という男が代表に選ばれた理由も。