第3章 恋人の距離
中々立ち上がらない風丸を円堂が呼ぶ。円堂に答え、風丸は返事を返したが、やはり痛みはあるようだ。花織は不安げな瞳で彼らを見守る。大丈夫だと言っているが、かなり派手に転倒していた。もし怪我でもしていたらと花織は心配でたまらなかった。練習を止めて彼の安否を確認することは容易いだろうが、そんなことはできない。ただ今の状況を見守ることしかできないのだ。
「不動!!今のはわざと後ろから」
危険なプレイをした不動に鬼道が詰め寄った。だがそれを遮ったのは意外な人物の声だった。
「いいぞ!不動」
チームの全員が耳を疑った。もちろん花織も。今の危険なプレーを褒めたのは他でもない、久遠監督だった。
「ナイスチャージだ」
花織は久遠監督を凝視する。監督が何をいっているのかが分からなくて思わず顔を顰めた。不動の今のスライディングは風丸の足を捉えていた、おそらくボールよりも先に。風丸は全く反応できていなかったから不動のスライディングをよけたというわけでもないだろう。となると不動の足が触れ、風丸がバランスを崩したということになる。通常ならファールになるプレイだ。
いやそれ以上に、今の不動のプレイは明らかに故意によるものだった。公式試合ならイエローカード。下手をすればレッドカードを取られてもおかしくないかもしれない。何故そんなプレーを久遠監督は褒めるのだろうか。絶対にチームにはプラスにならないプレーだというのに。
小さく積もりつつあった監督への不信感が倍増する。だがそれよりも花織は心配を映してフィールドに視線を戻した。ようやく風丸が何とか立ち上がったようだ。
「大丈夫かな、風丸くん」
隣に立っていた秋がポツリとつぶやく。彼女も不安げな表情を浮かべている。花織は首を縦に振りつつも、秋が零した言葉と同じことを考えていた。
大丈夫だろうか……。
再び走り出した風丸を見つめ、花織の心はそればかりだった。足を引きずっている様子はないし、動きも不自然ではない。さほどダメージはないように見えたが花織は心配で堪らなかった。練習が一度休憩に入った後、花織はマネージャーの仕事を急いで終え、すぐさま風丸の元へ駆け寄った。