第3章 恋人の距離
そしてさすが、というべきなのか。今までの監督の中で久遠の指摘が最も厳しいと感じた。壁山には守ることだけしかできないディフェンスはチームには必要ないと叫んだ。そして鬼道の指示で土方にパスを送った風丸にも、なぜ土方にパスを出したという怒号を浴びせた。鬼道の指示がなければお前は動けないのかと。
風丸が注意されているとき、花織は自分まで怒られているような気持ちになった。確かに、自分で判断し行動することはプレイヤーとして何より重要なことだと思う。それでもあの場面は、風丸は三人に囲まれていて咄嗟の判断をしにくい状況にあった。その中でチームの司令塔から指示を貰い、行動に移すのがそれほど悪いことだろうかと思ってしまった。たぶん花織が風丸の立場にいたとしても、きっと鬼道の指示に従った。
花織はぎゅっと胸元に抱えたノートを握る。でもそれではだめなのだろう。チームが世界で勝っていくためには個々のレベルアップが必要不可欠で、今のままの現状に妥協していては強くなれない。花織は風丸を特別視しているから彼を擁護してしまいがちだが、久遠の言葉は決して間違いではない。
立て続けに厳しい言葉を重ねられ、練習が終わった時には選手たちはクタクタだった。風丸も監督に言われたことを気にしているようで心なしか元気がない、というよりもハードな練習に疲れているようだった。風丸と話したいと思ったが、練習の後もずっと食事の準備や色々な片付けに追われていて中々声を掛ける時間がなかった。
だから消灯一時間前、花織は風丸の部屋を訪ねることにした。キャラバンに乗っていた時は移動時間がたっぷりあり、いろいろな話をすることができたが、この合宿ではそうはいかない。綿密に決められたスケジュールを選手もマネージャーもこなさなければならない。
夜、女子が男子の部屋を訪ねる。あまり良いことではないのかもしれないが、それでも花織は風丸と話がしたかった。今日の練習がどうだったのかを聞いて、今後彼のために役立てる何かをしたい。贔屓、と言ってしまえばそれまでだが、花織にとっては風丸がやはり大事であり、何より彼には前科がある。