第3章 恋人の距離
「そういえば、マネージャーの事なんだけどね」
秋が流した食器を立てかけながら思い出したように呟いた。花織は食器を洗う手を止め、秋の言葉に首を傾げる。秋は花織を見つめ、ふふと笑った。
「新しいマネージャーが来るんだよ。今日から」
「そうなの?」
完全に初耳だった。花織が驚き目を丸くすると秋はくすくす、と笑った。秋は事前に知らされていたらしい。秋は残り三枚になった汚れ皿を自分の元へと引き寄せ、花織の手からスポンジをそっと受け取ると手早く洗いながらそうだよ、と言った。
「八時半になったら久遠監督が連れてくるって。先に私たちに紹介してくれるみたい」
「八時半って……」
花織がちらりとカウンターの外にかかった時計を見る。時刻は八時二十五分。秋が言っている時刻まであと五分しかない。花織はええ……、と困ったように声を漏らした。
「秋ちゃん、もうちょっと早く教えてよ……。片づけがまだ」
「大丈夫よ。これでお終い」
花織が戸惑っているうちに秋は綺麗に皿を並べて収納し、食器乾燥機のスイッチを押す。振り返ってみれば春奈も目金もすでに掃除道具を片付け始めていた。秋は汚れた手を洗い、タオルで手をふくと秋はにっこりと笑う。
「みんなをびっくりさせたくて黙ってたんだ」
珍しい秋のお茶目な一面。思わず花織は肩をすくめる。そして自らも流水に手を差し出した。