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諸恋

第16章 エピローグ




陸上グラウンドを出て、来た道を戻る。青々とした葉の揺れる木々が並んだサッカーグラウンドへ。新たな始まりの場所へ、ふたりは足を踏み入れる。

「俺はこれからもこのフィールドで走り続ける。お前の隣で誰より近くで、これからを、いつまでもお前と一緒に走っていきたいんだ」

風丸の気持ちは十年前から変わらない。彼女の走る姿をみたときの衝撃を今でも覚えている。風丸は自分を黙って見上げている花織を見つめた。誰よりも美しく可憐だった少女は、あの頃よりも大人びて益々綺麗になった。短かった髪も揃いにするという約束を守るため、風丸と同じほどに伸ばしてくれそのままだ。艶やかで美しい黒髪が風に靡いている。

「花織」

ぴたり、とセンターサークルの中心で風丸の歩みは止まった。彼は両手で花織の左手を取って静かに花織を見つめる。優しい茶色の瞳が花織の瞳を覗き込んで、愛おし気に微笑んだ。大人になった彼女の中で唯一変わらないのは、彼女の黒い瞳だ。意志の強く優しい、いつも自分を応援してくれる大好きな瞳。十年という長い月日の間傍に居てくれたこの世界中で何よりも大切な人。

「愛してる」

その言葉と同時に、夕闇に街灯の光が灯る。まるで未来を照らすような眩しいその光は未だに彼女の胸に飾られたペンダントをキラキラと輝かせた。風丸は彼女のそんなところも愛おしく思う。初めてデートをしたあの日、風丸が花織に贈ったペンダント。十年たった今も、彼女は肌身離さず身に着けてくれている。彼女のひとつひとつ、何もかもが風丸にとって愛おしい。
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