第16章 エピローグ
「行こう、花織」
スタートラインを越えて、彼らは歩き始めた。静かにゆっくりと柔らかいタータンを踏みしめていく。青葉がそよ風に揺れていた。花織は自分に合わせて歩く風丸の顔を見上げる。風丸は花織の視線に気づいて、少し迷ったように目を伏せ、そして心を決めて彼女に話し始めた。
「花織。今まで俺の傍にいてくれてありがとう」
花織は思わず声を漏らして驚く。彼の口から出てきたのは思いにもよらない、花織に対する今までの感謝の言葉だった。風丸は静かに語り始める。あの頃より低く、落ち着いた声色で。
「俺の人生は振り返ってみればサッカーばかりだ。十年前サッカーを始めたあの日からずっとこの場所を走ってきた。……ずっとお前と一緒だった」
初めて帝国学園と試合をした時、彼は助っ人として雷門サッカー部に参加した。その理由には少なからず花織の存在があった。ゴールラインを越えてそれでも風丸は歩き続ける。花織のサッカーの始まりは風丸だと言うが、風丸のサッカーの始まりにも花織の存在があった。
「花織は俺がサッカーを始めたときからずっと俺を支えてくれたよな。俺が何もかもに絶望してダメになった時だってお前はいつも隣にいて俺の手を離さないでいてくれた」
一歩一歩、階段を上りながら思い出す。地上最強を求めた過酷な旅に彼は疲れ果て、そこから逃げ出したことがあった。それでも花織はずっと自分の傍で自分を支えようとしてくれた。力に目の眩んだ自分を彼女の声が目覚めさせてくれた。
「花織がいなかったら今の俺はここに居ない。花織がいないサッカーを俺は考えられない」
花織がいたからサッカーを始めようと思った。花織がいたから、強くなりたいと努力した。守るための力が欲しいと願った。彼女の声援が力に変わるから今まで走り続けられた。