• テキストサイズ

諸恋

第16章 エピローグ




風丸と花織は生徒のいなくなった雷門中学に足を踏み入れた。この十年の間に雷門中学は立て直しが行われており、見た目も建物も大きく変わってしまっている。サッカー部の扱いも良くなっていて、あのぼろぼろの部室の代わりにサッカー棟なんてものが建てられたという。

だが風丸と花織がやってきたのはサッカー部縁の場所ではなかった。変わらない陸上グラウンド、そしてその傍に在るベンチ。ベンチは新設されているようだが、配置は変わっていなかった。花織は懐かしさでいっぱいになって辺りを見回す。風丸はそんな花織を微笑ましげに見つめていた。

「懐かしい……。ここに来るの、何年ぶりかな」

ぎゅうと締め付けられるような胸の痛み。この場所にはいろんな思い出が詰まっている。サッカー部の誰も知らない、花織と風丸の始まりの場所。

十年前この場所で初めて彼と一緒に走った。彼のスピードにかなりの衝撃を受けたこと、そして負けたことがとても悔しかったことをよく覚えている。あの日から彼をライバルとして走るようになって、そして彼の優しさに触れることになった。

中学生の頃の未だに褪せない懐かしい記憶。花織は風丸を振り返った。花織はハッと目を見開く。一瞬、自分よりも背の高い、髪を高く結い上げポニーテールにした中学時代の風丸が見えたような気がした。

「……」

花織の瞳が大きく揺れる。今、自分の目の前で微笑んでいるのは、紛れもなく二十四歳になった大人の風丸一郎太だ。自分よりも十センチ以上高い身長、自分と同じくらい長い髪。もうすっかり大人になってしまった彼の姿がそこにある。ただ……、変わらないのは自分を優しく見つめる茶色の瞳だけ。

十年という長いようで短い時間を共に歩いてきた。時に傷つけ、それでも支え合いながらふたりで寄り添って歩いてきた。この場所に来れば思い出す、胸が張り裂けそうなくらいたくさんある青春の日々を。

「花織」

風丸が花織の名を呼んで手を差し出す。大きな手、あの頃よりもずっと大きくたくましくなったその手に花織はそっと自らの右手を預ける。彼はタータンの上を歩き、スタートラインに立った。風丸は花織を見つめて微笑む。
/ 366ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp