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諸恋

第16章 エピローグ





「一郎太くん」

自分の名前を呼ぶ花織の声がした。中学の時より少し落ち着いた花織の声。風丸は振り返る。そこには自分が呼び出した彼女の姿があった。あの頃から変わらない優しい黒い瞳が風丸を見つめている。

「花織さん」
「久しぶり、花織さん」

嬉しそうに声を上げ、中学時代花織に憧れることもあった二人が花織の傍に寄る。花織は吹雪に久しぶり、と言葉を掛け、微笑んだ。風丸は何も言わずにかつてのチームメイトに笑い掛ける彼女を見つめる。

「どうしたんだい、こんなところまで。今日は仕事は休みだったかな」
「ええ、今日はお休みを頂いてて。……一郎太くんと待ち合わせてたの。ここに来てほしいっていうから」

さりげなく風丸の隣に寄り添い、花織が彼の顔を見上げた。風丸は花織の手を取ってそれに答える。もう彼らが手を繋いでいることは正直日常茶飯事の光景なので吹雪らもあまり気にはならなかった。

「へえー……、待ち合わせねえ」

ちらりと吹雪とヒロトが横目で風丸を見た。風丸は気まずそうに視線を逸らす。何となく、さきほどの台詞と今の態度から彼がどうして彼女を呼びだしたのかが何となく二人には分かった。他のメンバーもあー、と何となく納得したような表情をしている。

「じゃあ僕たちはそろそろ帰ろうか」
「ふたりとも明日は来るんだよね。またその時にでも」

口々に言葉を掛けながらそそくさと彼らはその場を立ち去ろうとする。どうせ明日もあるのだし、話しはゆっくりその時にでもと言いたげだった。他のメンバーもこっそりと風丸にエールを送りながらその場を立ち去っていく。

「風丸さんファイトっス!」
「すでに賽は投げられた、しっかりね風丸」
「……まあ、頑張りな」

彼らは談笑しながら去って行き、雷門中学校門の前には花織と風丸だけが残された。風丸は花織の手をそっと握りなおす。そして花織をじっと見つめて柔らかく微笑んだ。

「とりあえず中に入ろうぜ。行きたいところがあったんだ」
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