第16章 エピローグ
「プロポーズのタイミングを逃したんだとよ」
黙り込んでしまった風丸に、不動が呆れ調子で言った。
「真面目な風丸クンらしいことで」
皮肉っぽい不動の言葉に風丸はムッとした表情を見せたが、彼の言っていることこそ的を射ていた。風丸と不動は中学時代こそ、仲が険悪であったものの、今は同じチームにいるということもあってか割と良好な関係となっている。風丸の現在の恋愛事情を最も良く知る人物と言っても過言ではないかもしれない。
月島花織との交際はもう十年にも及ぶ。風丸もそろそろ結婚を意識し始めている。だが本当にタイミングがないのだ。皆はどうして十八になった時に結婚しなかったのか、とよく風丸に聞くが、彼の中にはそんな選択肢はなかった。十八歳はまだまだ子供であるし、収入も安定していない。まだ花織を幸せにすることはできない状態で無責任に一緒にはなれないと思った。そしてそれから六年、円堂が結婚して風丸自身にも余裕が出てきたから彼女にプロポーズしようと考えたのがおよそ半年前の話だ。
だが十年も一緒に居ると、改めて一緒になろうと言うのは何となく恥ずかしくて、もしも彼女に断られたらどうしようという思いもあり、中々それらしい雰囲気になれないというのもあって今もまだ彼は花織にプロポーズできないでいるのだ。
「そんなこと言って……。あんまり長引かせると誰かに取られちゃうよ。花織さん、前に会った時も一段と綺麗になってたし」
「特に鬼道クンとかにな」
吹雪も不動と同じく呆れた様子で言った。太い眉は困ったように顰められている。風丸はあの頃より長くなった髪を揺らして俯いた。いつも肌身離さず持っているそれをポケットの中でぎゅっと握りしめる。
「分かってる。……だが、中々決心がつかなかったんだ。俺が本当に花織を幸せにできるのか」
花織の周りにはやはり自分より優れた人物がいくらでもいる。鬼道を始めとして元々の仲間たちも、また風丸の知らない彼女の友人の中にも花織に自分よりも相応しい人がいるかもしれない。未だにそう思ってしまうことがある。でも……。