第16章 エピローグ
花織の言葉に秋が驚きの声を上げる。このふたりに結婚しないなんて選択肢があるのか、そう言いたげな口調だった。花織はカップを下すと静かに自分の気持ちを告白する。彼女は秋と違って自ら風丸の話題を出しても照れたりはしなかった。
「最近考えてしまうの。私たち、ずっとこのままなんじゃないかって。だってもう十年もこうしてきたから。……一郎太くんもそんな気、無いのかもしれないなって」
「風丸くん……、何も言わないの?」
秋は目を見開いて花織に問いかける。信じられないというような表情をしていた。花織は何も、と秋に笑って返答し、紅茶のカップに視線を落とす。風丸からは結婚を匂わせるような話は一切ない。花織が少し仄めかしてみても、何となくはぐらかされて話を逸らされてしまう。
正直に言うと花織は彼と結ばれたいと思っている。去年夏未の幸せそうな花嫁姿を見てから特にその気持ちが強くなった。加えてテレビやネット、雑誌での風丸選手の女性人気を考えると特にだ。花織の嫉妬深いところは変わっていないから、そういうものをみるとどうしても複雑な気持ちになってしまう。
「でも、一緒にいるんでしょう。これからだって」
「うん。……だって一郎太くん以外の人となんて考えられないもの」
秋が困惑したふうにそう言えば、花織は即答した。きらりと胸に下げられた四葉のクローバーをモチーフにしたペンダントが輝く。そのペンダントは綺麗に手入れされているが、花織がつけるには少々子供っぽいデザインのものだった。
「……彼の隣に立てるのは、私だけ。そう思ってるから。独りよがりかもしれないけど」
花織が少し寂しそうに目を伏せた。風丸と花織はお互いがお互いを知りすぎているからもうきっと離れられないのだ。一番弱い部分、嫌な部分を全部知っていて今までずっとこの関係が心地よくてこうしている。だから余計にいけないのかもしれない。何か一つ違えば、きっと彼とは関係を持つことは無かったはずなのに、もう十年も時が過ぎてしまった。