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諸恋

第14章 スタートライン




二年生の初め、転校してきた日に花織は風丸を、そして風丸は花織を知った。そしてその日のうちに彼の、彼女の走りを目の当たりにした。風のようなスピード、しなやかで美しいフォーム、流れるような艶やかな髪に圧倒された。お互いが興味を抱くのには十分すぎる理由だった。

何度もここでスピードを競い合った、あの時は友として花織は何度も風丸に挑んだ。彼に勝利したことは一度もない。それだけ風丸は速かった。彼は花織にとって目標となった。

嫉妬や興味が恋心へ転じるのには時間は掛からなかった。同じトラックを走って彼らの心は近づいていった。この場所で語らい、お互いを知ることでその気持ちは益々大きくなっていった。たとえ何が彼らを阻んでもふたりの心は強く固く結ばれていった。

始まりを感じた場所。そして約束をした場所。

すれ違ってしまった時も、必ずこの場所で自らの心を打ち明け合った。過ちを許し合い、仲直りをした。心を通い合わせ、新たな約束を誓い合った。

この場所で育み、語らった全てが今のふたりの愛になった。

「……一郎太くん」

花織が顔を上げて風丸の瞳を見つめる。優しく穏やかな、確かに風丸にだけの愛情を映した黒の瞳。風丸はその瞳を自らの愛情を持って見つめ返した。

「二年間、ありがとう。……私、一郎太くんに出会えて本当によかった」

初めはこの恋心を疑ったこともあった。でも今は迷わずに断言できる。この恋こそが運命であったのだと。風丸は出会った時からずっと花織を底なしの優しさで包み、自らの心を犠牲にしても傍にいようとしてくれた。手段のために走るという花織の価値観を変えてくれた。風丸と出会ったことによって世界が変わった。風丸は花織の全てだ。

「花織」

風丸の手がそっと花織の頬を滑る。風丸は慈しむような瞳で花織を見つめて微笑んだ。黒の瞳も、桜色に染まる頬も彼への思いの丈を伸ばした黒い髪も全てが愛おしい。出会った時から揺らぐことのない想い。
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