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諸恋

第14章 スタートライン




散り急ぐ桜の花びらがひらりひらりと舞っている。一面の桃色の海の中で彼女は風を感じている。長い黒髪が艶やかに靡かせ、足元で踊る桜の花びらを宙へと舞い上げる。

卒業試合を終え、中学サッカーの終わりは華やかに閉じられた。高校でもサッカーやろうぜ、元キャプテンの円堂が告げた締めくくりに相応しい言葉を噛み締めて笑顔の中で彼女の中学サッカーは終わった。

でももう一つ。彼女の中には終わりにしなければならないものがある。雷門中サッカーグラウンドから校舎を挟んだもうひとつのグラウンド。懐かしいその地に彼女が足を踏み入れれば独特のゴムの感覚が足裏に感じられる。

陸上のトラック。もうここを去ってから一年以上もの時が経つ。まるで喧嘩別れをしてしまったようなこの場所にも未練がある。最後にもう一度この場所で走っておきたかった。短くとも、この場所は彼女にとっておそらく雷門中のサッカーグラウンドよりも大切な場所だった。真っ白なスタートラインに足を揃える。静かにその先の見えないゴールを見据えた。

「花織」

彼女がその場に構えようとした時だった。この場所に来るであろう彼の声が花織を呼んだ。花織は顔を上げてゴールから横へと目を逸らす。いつもの優しい微笑みを携えて彼は、風丸一郎太はそこに立っていた。

「やっぱりここにいたんだな」
「……うん」

一度スタートラインから離れて花織は風丸の元へ、風丸は花織の元へと歩み寄る。ふたりは遮られるものなど何もなく、手を取り合って向き合った。花織が柔らかに風丸に微笑んで目を伏せる。

「ここは、私たちの始まりの場所だから」

風丸が花織をそっと抱き寄せる。花織も風丸の背に手を回した。何も言わないでふたりは抱き合っていた。お互いを感じて、ただただこの場所の思い出に浸る。

他の誰とも違う、ふたりだけの始まりの場所。お互いにとって己の基盤となる場所。ここで彼らは出会い、恋をした。
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