第14章 スタートライン
ああ、そんなことも気づいていたのか。鬼道は思わず眉間に皺を寄せてしまう。一度だけあった、花織を諦めようとしたことが。だができなかった。できなくてここまできてしまった。鬼道は未練がましく言葉を紡ごうとする。
「だが……」
「私と鬼道さんは、別々の道を進みます。きっと、もう交わることは無い。一緒には行けない」
鬼道と花織はこれから別々の道を歩んでいく。きっと友人としてはこの先も繋がり続けることだろう。だが今までのようにお互いを心の底から分かり合うことはきっとできなくなる。鬼道と花織は再びお互いの瞳を見つめ合った。鬼道の赤い瞳がゴーグルの奥から花織を覗き込む。彼女は彼の瞳に弱かった。それでも花織の瞳は揺らぎもしなかった。秒針が答えを急くように音を立てる。長い長い沈黙の果てに、鬼道は絞り出すような声で呟いた。
「終わりなのか」
彼の唇は震えていた。彼女は静かに頷く。
「……はい」
「俺の気持ちは納得しないと言ってもか」
らしくない縋るような言葉だった。それでも彼女は振り返らない。
「身勝手なのは分かっています。……でも、もうすでに思い出には区切りを付けました」
決して鬼道を自分の都合のよい存在にはしない。花織は鬼道を見て微笑んだ。鬼道が愛した笑顔だった。
「ただ最後に。私の初恋の人は鬼道さんです。帝国学園で過ごした一年間、鬼道さんだけが私の全てでした」
花織は静かに胸に手を当ててそう告白する。胸の奥でちりりと燻るような感覚を覚える。かつての鬼道に対する恋心の名残。かつてはどうしようもなくこの人のことが好きだった。今でもまだその感情を誤魔化しているだけなのかもしれない。鬼道はそんな花織の想いを汲み取って問いかける。
「あの日がなければ」