• テキストサイズ

諸恋

第14章 スタートライン




彼女が告げたのは別れの言葉だった。鬼道はぴしりと身体が石になったかのような感覚を覚える。彼女の言葉の意味を必死に頭の中で手繰った。そして察した。だがその言葉は声にならず、彼女の名前を呼び返すのが精一杯だった。

「……花織」
「分かっていたんです、もっと早くにこうしないといけなかったことは。私は鬼道さんを選びませんでした。それなのに鬼道さんに頼って甘えて……、鬼道さんも気づいていたでしょう?」

花織は目を伏せて言葉を吐く。鬼道と花織の間には、お互い恋い慕う関係が崩れ去っても、他の誰にもない特別な繋がりがあって、共にそれを感じていた。鬼道は手に取るように花織の心を知り、花織もまた鬼道の想いを悟っていた。帝国学園で過ごした一年間という他の誰よりも長く過ごした時間が二人の関係を既に築きあげていた。

「鬼道さんは私の心を容易く見抜いて、私を何度も救ってくださいました」

鬼道は花織の特別な理解者だった。花織が辛く悩み、苦しんだ時彼はいつも傍にいてくれた。花織が風丸に対してどれだけの愛情を貫いていても、鬼道は純粋な仲間や友以上の関係で花織の隣に存在した。きっと、彼にとってそれは酷なことであっただろうに。

鬼道は花織の言葉に動じず、真っすぐに花織を見つめて自らの言葉を返した。

「それだけ俺にはお前が大切だからだ。……今も、そうだ」

鬼道の気持ちは揺れはしない。花織の心を取り戻せないと知ってなお、彼はこうあり続ける。鬼道はこうでありたいと願っている。鬼道はそっと花織の手に触れようとする。だが、花織は違った。かつては鬼道を愛した。だからこそ、今この関係に終止符を打ちたいと願うのだった。鬼道の手から自らの手を遠ざけ、凛然と花織は鬼道を見据えてきっぱりと言い切る。

「でもそれでは鬼道さんは報われない。私は一郎太くんを選んだから。気が付いていたんでしょう?きっと、もう随分前には」
/ 366ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp