第14章 スタートライン
あれから一年の歳月が過ぎた。FFIで優勝を果たした日本は空前のサッカーブームが巻き起こることになった。フットボールフロンティアでも雷門は二連覇を果たし、とうとう今日この日、彼らは雷門中学の学び舎を去る日を迎えたのだった。誰もいない教室の黒板には華々しい”祝!!卒業”の文字があり、今日の皆の門出を祝う言葉が掲げられている。
卒業証書授与式を終え、別れを告げたその教室に彼女は佇んでいた。窓から満開の桜の花を見つめ、ひとり思いに耽る。今日は新たな出発の日だ、だからこそ思い出すことも多かった。この三年間、彼女は多くの思い出をこの手にした。
卒業は新たな出発と共に別れの象徴だ。今日この時にはもう二度と戻れない。だからこそ別れを告げなければならないものもあった。
「……花織」
窓べりから外を眺めている美しい、一枚絵のような少女に彼は声を掛けた。その声の主が来ることを彼女はどこかで予感していた。花織はゆっくりと窓の外の桜の木からその少年の方へと視線を動かす。その人物を見つめて、彼女はふんわりと微笑んだ。
「鬼道さん」
ドレッドヘア―に見慣れたゴーグル。彼のトレードマークを見つめて彼女はそっと席を立つ。鬼道は彼女の元へ歩み寄って窓の外に目を向けた。ちょうどここからは桜の木に囲まれたサッカーグラウンドが見下ろせる。鬼道はそこに集まる仲間たちを見た。そんな彼に花織は言葉を掛ける。
「もうグラウンドに行ったのかと思いました」
今日、卒業式の後には円堂たちの最後の試合が予定されている。サッカーの卒業はサッカーで締める。夏未の提案によって続々と今まで苦楽を共にした仲間たちがグラウンドに集まり始めている。風丸は、きっともうそこへ向かっている。花織がこの教室でひとりいることを知らないだろう。
「お前こそ。こんなところで何をしているんだ」
「何も。……ここから景色を見るのは最後なんだなって思うと離れがたくて」
鬼道が花織を見つめ、問いかける。花織は肩を竦めて微笑み、窓の外に目をやった。もう十分に涙を流したはずなのにこの場所から離れがたかった。まだここにいたいと思ってしまった。花織は込み上げる息を堪えて鬼道に語り掛ける。