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諸恋

第13章 ふたりの軌跡




花織の中で燻る小さな気持ちが燃え上がるような感覚があった。花織は目を見張って頬を紅潮させた。瞳を潤ませて少し恥ずかし気に鬼道から視線を逸らす。少しだけ、ほんの少しだけ鬼道に恋をしていた時の気持ちを思い出した。鬼道はいつも優しく自分を受け止めてくれた。

それでも。

花織は凛と鬼道を見つめる。鬼道の手を握り返すことはしなかった。

「……確かに鬼道さんなら、私のことを不安にさせるなんてしないでしょう」

花織は鬼道を誰よりも信用している。鬼道ならば言葉通り、花織をこんな気持ちにさせたりはしないだろう。今のように花織の意図を汲み、花織の気持ちに答えることだろう。花織の瞳がきらりと光を受けて輝く。

「でも私は、一郎太くんがやっぱり好きです」

たとえ冬花との間に何があっても、彼が何かを隠していたのだとしてもきっとその気持ちは変わらない。花織は続ける。

「私は、一郎太くんの傍にいられればそれだけで幸せです。彼の隣を走れることが何よりの私の幸せ……」

口に出して花織は気が付いたようにハッと口を押えた。するりと鬼道の手から花織の手が離れる。そうだ、私の望みは……。今まで周りのことばかりに囚われていて自分の幸せを見失っていた。冬花も風丸の周りのファンの女の子も関係ない。

私は一郎太くんの隣を走っていられればいい、それが何よりの望みだ。

鬼道が寂し気に口元を緩める。

「なら風丸を信じろ。俺からお前を奪ったアイツがそう簡単にお前を手放しはしないだろう」

じんと胸が熱くなった。花織は大きく息を吐き、そして吸い込む。今まで胸を覆っていた重く苦しい妬みが晴らされたような気がした。信じていていいんだと鬼道の言葉から自信を貰えた。鬼道の言葉は今になっても花織には大きな影響をもたらす。

「はい、鬼道さん」

花織はほっとしたように笑む。安堵から来た涙が静かに頬を伝ったが、彼女はそれを自ら拭った。彼が好きだ、心から信じている。疑うことなど何もないのだとそう思った。鬼道は自信付けられた花織を見てやんわりと笑む。彼女の心の変動に自らも揺り動かされながら。
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