第13章 ふたりの軌跡
「花織」
遠ざかる世界の音の中で、その声だけは鮮明に聞こえた。その人物は花織の肩を掴んで自分の方へ花織の身体を振り返らせた。花織は大きく見開いた瞳にその姿を映す。ドレッドヘア、特徴的なゴーグル、風になびく赤いマント。
「どうしたんだ、花織」
「鬼道、さん……」
その姿を視界に捉えて花織はあえぎあえぎにその名を呼ぶ。ただならぬ花織の様子に眉を顰めて鬼道が花織の身体を支えた。いつぶりかに鬼道は花織の手に触れ、その手が驚くほど冷えていることに驚いた。鬼道は花織の肩を掴む手とは反対の、もう一方の手で花織の頬に手を這わせる。
「花織」
優しい低い声で囁きながら鬼道が花織の目を覗き込む。彼女の黒い瞳が、滲んだ涙でゆらゆらと揺れている。ぱくぱくと金魚のように彼女の小さな口が動く。よほど何かにショックを受けたのだろう、顔は青ざめてすらいる。鬼道は花織の頬を撫でた。こんな顔をこの島で花織にさせることができる人物はひとりしかいない。
「……」
ちらりと鬼道は花織から視線を逸らしてあたりを伺う。嫌に視線を感じると思えば、やはりこの状況が周囲の興味を引いているようだった。それは目立つだろう、イナズマジャパンの選手である鬼道がこの場にいることも、ただごとではない花織の様子も。鬼道は花織の頬から手を離し、花織の肩を抱く。彼女が落とした荷物を拾って花織に声を掛けた。
「少し歩くぞ、ここは人目に付く」
「……はい」
小さな彼女の震え声が鬼道に返答する。ひらりと鬼道のマントが翻る。覚束ない彼女の足取りを鬼道はしっかりと支えて歩を進めた。