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諸恋

第13章 ふたりの軌跡





「ん……!?花織!?」

ガバッと勢いよく風丸が布団を剥いで起き上がった。花織も自分が行った所作に対して顔を桃色に染めていたが、その比でないくらい風丸の顔は真っ赤になっていた。彼はもうすでに完全に目が覚めていた。

「おはよう、……一郎太くん」

花織がふんわりと風丸に微笑みかける。風丸は口元を抑えて混乱する頭を整理しようとしていた。なんで花織が部屋に、しかも今……。心臓が早鐘を打っている。おはよう、と返すために口を開けば心臓が口から飛び出てしまいそうだ。

「ごめんね、一郎太くんがあんまりカッコいいからつい。目、覚めた?」
「……あ、ああ」

謝罪の言葉を口にしつつ手を合わせて首を傾げる彼女はこちらの気分が落ち着かなくなるほどあざとい。だがようやく彼の気持ちも落ち着いてきた。風丸は頬は赤らめたままだったがしっかりと花織を見つめる。いつも通り美しい艶やかな黒髪、自分を見つめる黒い瞳。

「おはよう、花織」
「おはよう、一郎太くん」

見つめ合って挨拶を交わして、風丸は花織に手を伸ばした。彼女の肩に触れて今度は自分から口づけを落とす。花織は目を瞑って彼からの口づけを受け入れた。唇が離れてお互いに照れくさくなって微笑み合う。なんだかとても新鮮な感じがした。朝、こうしておはようのキスをするなんて。

朝っぱらから甘ったるい空気。この空気が取り払われたのはこれから何分も後のことになる。花織があまりのいちゃ付きっぷりに秋から軽いお説教を貰うのはまた別の話である。
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