第12章 彼の秘密
厭味ったらしいほど爽やかにウィンディが花織だけに笑いかけた。さらりと長いスカイブルーの髪を靡かせ、道を戻っていく。残された花織は風丸の顔を恐々と見上げようとしたが、それよりも速く強引に風丸が花織の腕を引いた。
一郎太くん。
そう一言声を掛けるのも気が引けるほど、彼は苛立っている。花織はそれを肌で感じていた。乱暴に合宿所のドアを開け、乱雑に傘を放ったのもいつもの彼らしからぬ行動だ。放られた傘は傘らしからぬ音を立てていた。花織は強く握られた腕が痛かったが、そんなことで口を挟めないほど風丸のイライラは目に見えていた。
無理やりに風丸の部屋に押し込まれて、花織は風丸に押され、ベッドに腰を下ろしてしまう。私汚いのに、とそう口を挟む隙を与えず、戸惑う花織の黒い瞳をぐっと肩を掴み風丸が覗き込んだ。
「アイツに、何をされたんだ」
そう問いかけた彼の声のトーンは低かった。いつも花織を見つめる優しい茶色の瞳はギラギラとして、花織に対して明らかに怒っているようだった。ぎりぎりと彼が肩を掴む手に力が籠り、痛みを感じる。花織はそんな風丸に怯んでぎゅっと自分のユニフォームが入ったビニール袋を握りしめる。
「べ、別に何も……んっ」
花織が恐々そう返答する前に花織の口を風丸は塞いでしまった。まるで噛みつくような荒々しいキス。花織の虚を突いて彼は花織の口内に舌をねじ込んだ。花織のすべてを支配するような風丸が時々、嫉妬に駆られた時に見せる深い口づけ。
「ん……、んんっ」
息が苦しくなって花織は風丸のシャツの胸元を握る。花織はそれでも口づけをやめようとはせず、むしろ熱烈に花織を求めた。何度も何度も深く口づけられて花織は甘い痺れの中、風丸にされるがままだった。力が抜ける花織の身体をベッドに押し倒し、それでもキスをやめようとはしない。
「花織……っ、はあ」
重ねていた唇が離れて、風丸が低く囁く。ふたりを繋いでいたどちらともない唾液がぷつりと切れて、風丸がそれを手の甲で拭う。ぎらりと理性なしに鈍く光る瞳。彼は今、抑えられない衝動の中にあった。