第12章 彼の秘密
『あのさ、花織。俺は別に花織が不安になることなんてないと思う。風丸の彼女は誰がなんて言ったって花織なんだし』
「でも……」
『花織は謙虚すぎるんだよ。もっとこう、なんていうか……、風丸の彼女は私なんだってアピールしてもいいんじゃないか?』
風丸の彼女だとアピール……。花織は半田のその言葉であることを思い出した。ベッドから立ち上がって日本から持ってきた荷物を漁る。その中から一枚のシャツを取り出した。青い、風丸の背番号が刻まれたサポーターユニフォーム。恋人ではなくて一ファンの領域を抜けられていないような気がして着ることができなかった。
でも逆に合宿所の皆には、風丸一郎太の彼女であることをアピールできるのではないだろうか。もちろん冬花にも。
「アピールしても、いいのかな……。一郎太くん、嫌がったりしないかな」
『俺はいいと思うよ。……仮に、花織が俺の彼女だったら花織がもっと主張してくれたら嬉しいと思う』
「……そっか」
花織は半田の言葉に励まされてサポーターユニフォームを手に取る。レプリカでもまるで本物のユニフォームのように、花織にはこの背番号のユニフォームは重く感じられる。ぎゅっと花織はサポーターユニフォームを胸に抱いて目を伏せた。明日、これを着て走ってみよう。
「ありがとう、半田くん。なんかちょっと気持ちが楽になった気がする」
『なら良かったよ、ずっと花織が心配だったから。あのさ……、花織』
電話の奥で優しい声が花織に囁く。友としてだけの感情を超えたような声で半田は花織に語り掛ける。
『俺はいつだって花織の味方だから。だから何かあったら頼ってくれよ。……俺じゃちょっと頼りないかもしれないけどさ』