第12章 彼の秘密
人目に付かないような、こんな廊下の片隅で。一体何を話していたのなんて聞くのは大人げない。そんなことは分かっているが花織はそれよりも自分が安心をしたかった。だが風丸と冬花が返した返答は素っ気無いものだった。
「別に何でもないさ。な、久遠」
「うん、風丸くん」
二人は花織にそうやって笑いかける。そう言われてしまうと花織はそれ以上追及することはできなかった。
「そっか。残念……」
花織は笑みを崩さなかったが内心は二人に誤魔化されたことによる不信感で一杯だった。何でもないなんて嘘だ。そんなの風丸の顔を見ていればすぐにわかる。ほんのりと頬を赤らめて、いつも照れを隠すときに見せる笑い方。どうして、何でもないことなら教えてくれないの。何かやましいことでも隠してるの?そんなことは聞けずに花織は黙り込む。
「じゃあ風丸くん、私もう行くね」
「ああ、わかった」
ひらりと冬花が手を振ってこの場から去っていく。花織は冬花を見送る風丸の横顔を見つめた。はにかんで、耳も少し赤くて。花織はぐっと奥歯を噛み締める。話しをしないで、なんて言わない。他の女の子に笑っちゃダメとも言わない。きっと私に内緒の話だってしたいときもあると思う。
でもなんでその相手はよりによって冬花さんなの?
「花織」
風丸が花織を振り返って微笑む。優しくて頼もしくて、いつも通りの男らしい、花織の大好きな笑顔。風丸はそっと手を伸ばして花織の髪を撫でる。どきん、と胸が高鳴る。だが同時に胸に蔓延るドロドロの汚い気持ちも大きくなるような気がした。
「どうしたんだ、暗い顔してるぞ」
心配そうに顔を覗き込んで、さりげなく肩にも触れて。やっぱりいつもの風丸だ。花織は眉根を下げまま、風丸に笑いかける。全部の私の強い嫉妬心が考える思い過ごし、なのかな。
「大丈夫、ちょっとぼうっとしちゃっただけ」
「そうか、ならいいんだ」
食堂で話そうぜ、そう言って風丸は花織の手を引く。花織は何も言わずに前を歩く風丸の横顔を不安げに見つめていた。