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諸恋

第11章 麗しの花嫁





セインが静かな声で花織に告げる。そっと花織の頬に手を触れてその桜色の唇に親指を這わせた。花織がびくりと肩を震わせる。

「今から私が貴女に呪いを掛ける。さすれば貴女は深い眠りに誘われる。先ほどのものとは違う強き呪いだ、そう簡単には解けない。解けるのはそう、お前が愛する男にのみ」

賭け、とは言ったものの、セインは花織にその賭けを勝たせる気などまったくなかった。何しろ人間の愛ほど信用ならないものは無いと思っていたからだ。その男が少女を迎えに来ることなどない。ましてや真実の愛など、持ち合わせているわけがない。そもそも花嫁を簡単に下界のものに引き渡したりなどしないのだから眠りから覚めるわけもない。

「真の愛があれば眠りから覚める。その時は、その男の元へ貴女を返そう。だがなければ貴女は眠りについたまま、魔王の花嫁となる」
「……わかりました」

だが花織はすぐにセインの言葉に頷いた。真っすぐなその瞳は自分を迎えに来る者がいると信じきる浅はかな信頼を宿していた。花嫁とはいえ、所詮は人間の娘よ。……憐れで、それでも愛を信じるのだから美しいともいえるだろうか。セインはそんなことを思う。

「私は一郎太くんが来ることを信じます」

花織の宣言をせせら笑ってセインは花織の唇に人差し指を触れた。二言三言、呪いの言葉を唱えれば花織の身体がぐらりと揺れる。花嫁の瞳が強い光を失い、瞼を下した。セインは崩れ落ちる花嫁の身体を抱きとめる。憐れな娘だ、人間の愛などと根拠のないものを信じているだなんて。

「エカデル、花嫁を連れて」

そこまで言いかけてセインは口を噤んだ。エカデルも眉を顰める。ろうそくに燈された火が一斉に揺らいだ。空気が乱れている。背後からコツコツと石畳の上を歩く足音が聞こえる。

「セイン、お客さんだぜ」

声を掛けたのは外で準備をしていたエルフェルだ。忙しい時に、と忌々し気にセインが立ち上がる。わかった、すぐに行くと低い声で返答し、彼は儀式の間を後にした。
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