第2章 選ばれた精鋭
花織は鬼道に微笑みかける。結い上げられた彼女の黒髪がさらさらと夜風に揺れた。その表情からは鬼道だけに向けられた心配が浮かべられている。彼女の背後に映る満天の星空は彼女の存在を引き立てる。今まで走っていて汗をかいて、髪も乱れているはずなのにそれでも彼女を美しいと思う。尖り続ける鬼道の心を静かになだめようとする。少しだけ彼の表情が柔らかくなった。
「……ああ」
ふたりは河川敷のグラウンドへ降り、傍のベンチに腰掛ける。川の水面がきらきらと月明りに照らされて輝いている。並んで座る二人の距離は花織が風丸と掛けて座る時よりは遠く、秋たちと談笑する時よりは近い。
「使うといい、俺は今日使ってないからな。……この季節だとはいえ、夜風は少し寒い」
鬼道は自分の荷物からタオルを取り出す。鬼道の言う通り確かにとても暖かい気候だが、夜になると少し冷える。汗をかいたままにしておいては風邪を引いてしまうかもしれない。花織は有難くそれを借りることにして鬼道に礼を言う。気にするなと鬼道は固かった表情を崩し花織に微笑んだ。だがすぐに花織から目を逸らす。
「お前はアイツを日本代表に相応しいと思うか?」
単刀直入に鬼道が花織に尋ねた。花織は黙ってうつむいた。
鬼道がここまで日本代表候補に呼ばれた一人、不動明王を疎むのには理由がある。嫌味な性格も理由の一つだが、もちろんそれだけではない。
「あいつは佐久間と源田に大怪我を負わせた。お前にも危うく怪我を負わせようとした」
不動明王は真帝国学園のキャプテンだった。影山零二のもとで佐久間、源田の劣等感を刺激し鬼道と対立するように嗾けた。それだけではない。鬼道を見返すためだと唆し、肉体に破滅を及ぼすとわかっていて禁断の技を使わせた。結果、佐久間と源田は大怪我をした。特に佐久間は自力では立ち上がることもできないほどの怪我だった。瞳子が紹介した最新鋭のメディカルセンターでの治療がなければ今回の代表選考にはきっと間に合わなかっただろう。
「俺はアイツに日本代表になる資格があるとは思えない」