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諸恋

第10章 彼女の苦悩





絶対に頼んだはずなのに。花織は曖昧な記憶を辿る。辛くて、苦しくて堪らない中でもそれだけは念押ししたつもりだ。優しい風丸のことだから間違いなく自分を心配してここへやってくると分かっていたから。風丸はそんな花織の意図を汲んでぎゅっと手を握る。

「俺が、木野たちを押し切って無理やりここに来たんだ」

優しい茶の瞳。花織は唇を噛んで目を伏せる。静かに赤い頬に涙が伝い落ちる。やっと眠りにつくことで止まったはずの涙は、伝い落ちて枕を静かに濡らす。

「うつっちゃうから。お願い、部屋から出て……。一郎太くんにうつっちゃったら私………、みんなに顔向けできない」

身体を起こして、できることならば今すぐ風丸を部屋の外へと押し出してしまいたい。なのに体がだるくてきつくてそれすらままならない。それでも何とか花織は手をついて身体を起こす。ふらふらして身体が重い。荒く花織が息を吐く。

「花織」

風丸はそんな花織の身体をぎゅうと抱きしめた。力の入らない花織の身体が風丸に預けられる。熱い身体、まだ熱は高いようだ。風丸は逞しい腕で花織を支え、はっきりと言い切る。

「大丈夫だから、何も気にするな」
「でも……、わたし」

ふうふうと荒い呼吸、風丸は強く花織を抱く。辛いだろう、苦しいだろう。この苦しみを取り除いてやりたいと風丸は思う。その手段を思いつかないわけではない。風邪はうつせば治るというが、さすがに選手である自分が貰ってしまっては花織が一生責任を感じて悔やむだろう。

「花織」
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