第10章 彼女の苦悩
胸に抱いた彼女の身体を支え、ゆっくりと横たえる。強く花織の手を握りしめて花織を見つめた。黒い瞳が潤み、未だ涙をこぼしている。風丸を見つめて心配するような瞳。今心配されるべきなのは俺じゃないのに、風丸はふっと目を細める。
「俺の心配はいいから。大丈夫さ、俺はそんなに軟じゃないよ」
頼もしく風丸が笑って見せる。花織を安心させるように優しい声で言葉を掛けて、花織の髪を撫でる。その動作一つ一つが、花織が張っていたバリアを取り除いていく。
「花織は頑張りすぎたんだよ。だから、今はゆっくり休んでいい」
風丸に釣り合おうと無理をしてきた。イナズマジャパンのマネージャーとして相応しくあるように努力してきた。花織は俯く。
「……でも私、マネージャーなのに。選手に迷惑かけるなんて」
「いつも俺たちは花織に支えてもらってるよ。必要以上に無理をする必要なんてないんだ」
誰も踏み込むことのできなかった彼女の心の領域へ風丸は簡単に侵入する。
「……それに、たまには俺に甘えてくれないか。俺は花織の彼氏なんだから」
どきん、と花織の心臓が大きく拍動する。熱で速まっていた鼓動が益々速くなった。花織は口を開いたが言葉を見失い、何も言えなかった。花織はとめどなく涙を流して、弱弱しく自分の手を握る風丸の手を握った。
「……っ、一郎太くん」
「なんだ、花織」
柔らかく風丸が微笑み、花織を見つめる。花織はようやく心からの願いを風丸に対して口にした。
「少しだけ、傍にいて……」
消えてしまいそうなほど小さな声で紡がれた花織の願い。風丸はそんな花織の切実な願いごとに愛おし気に微笑む。優しく風丸は花織の黒髪を撫ぜて、花織の手を握る力を強める。
「ああ。いくらでも傍にいるよ」
彼の茶色の瞳がゆっくりと細められる。
「花織が傍にいないと俺は頑張れないんだ」