第10章 彼女の苦悩
練習熱心な彼女のことだから、自分のトレーニングもしていたことだろう。考えるだけでも身体を追い詰めているのだから、体調を崩すのはいつであってもおかしくなかったわけだ。
でも、なぜここまで彼女は無理をしていたのだろうか。
「秋ちゃん……」
そんなことを考えつつ、秋が花織の部屋を出ようとすると、花織のか細い声が秋を呼んだ。秋は振り返る。秋はそっと花織の隣に掛けて彼女を見つめた。
「なあに、花織ちゃん」
「一郎太くんを、この部屋に入れないで。……ううん、一郎太くんだけじゃなくて。選手はみんな」
口元まで布団をかぶって花織は秋に言い付ける。うるうると熱で潤んだ瞳から涙がぽろぽろと零れている。秋がその涙を拭おうとしても花織は身を縮めてそれを拒否する。
「うつったら、いけないから」
本当は、寂しくて心細くて仕方がないだろうに。秋は心配そうに顔を顰めて花織を見つめる。風邪を引いてしまった時、酷く寂しくて切なくなるのは万人に共通するものだと思っている。花織だってきっと同じに違いない。でも彼女は一番傍にいてほしいであろう人物を遠ざける。
もちろん、マネージャーとしてなら選手を遠ざけたいと思うのは当たり前だ。イタリア戦をすぐに控えているのだから、万が一選手に風邪がうつったりなどしたら大変なことになる。花織の発言はマネージャーとしては間違っていない、けれども。
「うん。……できるだけ、そうするね」
秋は曖昧な言い方をして花織の部屋を出る。選手のことを考えるなら花織の言うとおりにするのが一番いい。でもイナズマジャパンは花織を含めてのチームなのだから、チームにとって良い方法を取るのが一番いいに決まってる。