第10章 彼女の苦悩
「花織さん!」
ぐったりとした彼女の声を呼んで、ヒロトは花織の額に手を伸ばす。やはり、熱い。間違いなく熱がある。ここの所の無理が積み重なり、昨日の野宿が引き金になったに違いない。そういえば昨夜、彼女は咳き込んでいることがあった。
「花織ちゃん!どうしたの!?」
「花織先輩!?」
まだ食堂に残っていた秋と春奈が花織とヒロトの傍に駆け寄る。花織は目を伏せて、ふうふうと荒く息を繰り返している。ヒロトは顔を顰める。抱きしめた花織の身体は燃えるように熱い。今まで、外でヒロトたちがカッパとサッカーをしている間も、かなり辛かったに違いない。
「基山くん!どうしたの!?」
「急に花織さんが倒れたんだ。熱があるみたいだから、早く休ませた方がいい」
ヒロトが事情を聞いてきた秋に伝える。とにかく彼女を部屋に寝かせないと、そう思ってヒロトは花織の身体を抱き上げようとした。
「わ、私、風丸先輩を呼んできます!」
動揺した様子を見せている春奈が、そういってグラウンドへ駆けだそうとした。だが花織がか細い声でダメ、と呟いた。
「春奈ちゃん、ダメ……」
「花織ちゃん?」
春奈は花織の声に足を止め、秋が花織の顔を覗き込む。彼女はうっすらと目を開け、二人を秋と春奈を見ながら力なく言葉を紡ぐ。
「一郎太くんには、言わないで……。心配かけたくない」
つうっと彼女の瞳から涙が零れ落ちる。彼女の心の中で今渦巻いているものは、何だろう。この期に及んでも彼女が心配しているのはきっと、風丸のことばかりなのだ。ヒロトは黙って花織を横抱きにして抱え上げた。そして春奈と秋に告げる。
「俺は花織さんを部屋に連れて行くよ。木野さんと音無さんは花織さんに着替えを準備してあげてほしい。……風丸くんには悪いけど、花織さんの言う通り練習が終わるまでは花織さんのことは黙っておこう」