第10章 彼女の苦悩
「……ううん。でも、また心配かけちゃった。……私、マネージャーなのに」
マネージャーが選手に心配を掛けるなんて、彼女の口ぶりはそんなことを言いたげだった。ヒロトは少しだけ目を細める。やはりこの頃の彼女は少し変だ。あの時、褐色の肌の少年が彼女を訪ねてきたときも感じた彼女の違和感。この頃の彼女はどこか繕い笑っていることが多いような気がする。
「最近の花織さんは凄く頑張っているね。君がマネージャーでとても助かっているよ」
「……そんなことないよ。私なんかより、秋ちゃんや冬花さんのほうが」
ヒロトがこの頃の彼女の頑張りを称える。だが彼女は静かに首を振って否定した。それどころか悔し気な顔を見せて俯いている。現状に、自分に納得がいかないというような表情。ポツリと彼女は微かに声を漏らす。
「こんなんじゃ私、一郎太くんの彼女に相応しい人になれない」
きっとこんな弱音を、ヒロトに告げる気はなかったのだろう。だが疲労と眠気が彼女に本心を零させていた。ヒロトはその言葉を聞いて自分の中で風丸に対する嫉妬と、だがそれよりも彼女を心配する気持ちが大きくなるのを感じた。やっぱり彼女は無理をしているんだ、彼のために。
「花織さん、俺の名前ってヒロトっていうんだ」
唐突にヒロトが話を切り出す。いきなり語りだした ヒロトを花織は不思議そうな顔をして見た。ヒロトは空を見上げる。満天の空には小さな星がいくつも散りばめられている。
「父さんの今はもういない息子さんの名前を、俺は貰ったんだ。父さんの死んだ息子に似てたから」
今でも思い出す。名前を貰った日のことを。そして名前の意味を知った日のことを。ヒロトの全ては自分を救ってくれた父のものだった。父の愛を受けるためにヒロトは父に相応しい息子になろうとした。
「だから俺はずっと父さんの息子に相応しい人間になるのに必死だった。父さんの望むヒロトになりたかった。父さんのために何でもしたいって思ってたよ」