第10章 彼女の苦悩
「付いてくる……」
木暮は縋るようにヒロトを見上げる。花織も背後の得体のしれない存在に不安げにヒロトを見つめた。
「ヒロトさん……」
花織は、こうして何者か分からないものに後を付けられるということにトラウマがあった。かつて影山総帥の部下に後を付けられたことがあったからだ。彼女の瞳は僅かに潤み、今にも涙が零れそうになっている。
ヒロトはそんな彼女を見て、一刻も早く追跡者を遠ざけなければと真剣な表情をする。
「花織さん、手を」
ヒロトはそういうのと同時に、花織の左手を掴む。これで少しでも彼女が安心できればと思った。そして追跡者を振り切ろうと木暮に目配せをして歩行スピードを速める。
「……っ」
だが追跡者は全く同じスピードで三人を追ってくる。振り切れないとわかったヒロトは背後を振り返った。花織を庇うように背に隠し、じっと追いかけてくる奇妙な少年を見つめる。
「何か、用かな?」
勇敢にもヒロトがその生き物に声を掛けた。ヒロトが声を掛けるとその者はすたすたとこちらに歩み寄ってきた。花織と木暮は表情に怯えを浮かべて、後ずさりどちらともなく互いの服を掴む。まるで河童のような少年はヒロトの前で立ち止まると何かを彼の前に差し出した。
「くれ」
えっ、とヒロトが声を上げる。差し出されたのは色紙とサインペンだった。花織と木暮はほっと胸を撫でおろす。何だ、彼は変なコスプレこそしているものの、イナズマジャパンのファンだったのか。
「なぁんだ。こいつ俺たちのファンでサインが欲しかったんだな」
木暮が安堵したように呟く。亀崎カッパと名乗った少年はヒロトからのサインを受け取ると、彼らに一本のキュウリを渡して森の中へ消えていった。