第10章 彼女の苦悩
ウィンディはバッと受話器を耳にめり込まん勢いで押し当てる。彼女の声、聴きたいと思っていたあの声。喜びからウィンディの表情が綻ぶ。
「おはよう、カオリ。俺だ、ウィンディだ」
『えっ、ウィンディ?……どうしてウィンディが私の番号を?』
困惑したような彼女の声。ウィンディは正直に彼女に理由を語る。
「ジャパンの他のマネージャーに聞いた。こんな朝早くに、いきなり連絡してすまない。でもカオリの声が聴きたかったんだ」
顔の見えないもどかしさを感じながらもウィンディは一心に受話器に語り掛ける。彼女の息遣いからまだ混乱している様子は伝わったが、彼女は電話の相手がウィンディだと分かって少し安堵したようだった。
『あ……、そうなんだ。ちょっとビックリしちゃった。知らない番号だったから』
「すまない。でも朝からカオリの声が聴けて嬉しい。今日もこれで練習を頑張れそうだ」
相手がウィンディだとわかり、安心したからだろうか、彼女の声が心なしか和らぐ。耳に心地よい優しい声色がウィンディの心を擽る。だが今日はそう長電話はしていられない。彼女も忙しいだろう。
「突然連絡して悪かった。今日は唐突だったからもう切るよ。……なあカオリ、時々で良いんだ、また連絡してもいいか?」
ドキドキと緊張で高鳴る胸を抑えながらウィンディが問う。もしも断られたらきっと立ち直れない。彼女が電話越しに少し考えているような沈黙を醸す。そしてウィンディにやわらかい声で返答した。
『忙しい時は出られないかもしれないけど、それでもいいなら良いよ。電話くらいなら』
よし、思わずウィンディは受話器を持っていない方の手でガッツポーズを取る。そしてにやける口元を抑えながら、気持ちを抑え電話越しに聞こえる声に対応した。
「ありがとう、カオリ。じゃあまた連絡するな。デートにもまた改めて誘いに行く」